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症例:犬の重度歯周病で全抜歯

 政岡動物病院勤務獣医師山口による歯の話第6回。今回紹介する子の歯周病はかなり重度です。

 結論から申し上げると、全ての歯を抜く事になりました…。

 しかし歯を抜いて10ヶ月経過の現在、歯科処置前は瘦せていたのに、ちょっとぽっちゃり健康体になり、口臭もなく、美味しくご飯を食べて過ごしてくれています。

 では症例と治療の詳細です。

 7歳のトイプードル、去勢済みの男の子です。数年前に別の病院でも歯科処置をした経験がありました。

 左の頬から出血したとの事で来院されました。経過から、歯が原因である事を疑いました。

全体的に歯周病がひどく、奥歯の歯根膿瘍(人でいうところの歯槽膿漏に近い。歯の根っこの先端部分に膿が溜まる)で、細菌感染が進んで頬の骨まで溶かし、更に頬の皮膚を突き破って膿が出てくる外歯瘻(がいしろう)という状況です。

 抗菌薬と、抗炎症鎮痛剤の投薬で少し改善しましたが、治りきらず、原因となっている歯を含めて悪い歯を抜く事になりました。

 写真①②は手術前の歯の様子です。前歯は元々無く、大きめの歯だけが残っていました。全ての歯でぐらつきがありました。

 レントゲン(写真③)を撮ったところ、殆どの歯で、歯根周囲の骨が溶けて、歯が骨から浮いている様子が見られました。

 抜歯が必要なのは確実なのですが、問題がありました。顎の骨が細く、歯周病が重度になって骨が溶けている場合、下顎の犬歯や臼歯を抜くと、骨折の恐れがあるのです。

 とは言え、抜かないでいると更に歯周病は進み、ある日突然下顎骨が折れる子もいます。

 慎重に慎重に、抜歯を進めました…。

 最終的に無事に抜歯ができて、写真④,⑤のように抜いたところは縫合して、しばらくはエリザベスカラーを着けてもらい、顔をぶつけないように生活してもらいました。

 現在のところ、顎骨骨折の様子はありません。

 しかし、歯肉が大きく退縮(歯ぐきが下がるような状態)していた右の上顎の犬歯を抜歯して縫合した跡の部分には、2ミリくらいの穴が空いてしまいました(写真⑥)。ドライソケットと言います。くしゃみなど、支障があれば再手術の対象になりますが、今のところそういう事も無いので経過を見ています。

 歯周病は、かなり重度になっていても、犬猫はご飯を食べるし、すぐに死ぬ事もめったにありません。しかし、放置していると確実に進行し、やっと治療しようとした時には、大きなリスクを犬猫に負わせる事になる場合があります。

 なるべく早くに治療を開始し、予防と対策をする事が、大切な犬猫ちゃん達のためになります。

 うちの子の口の中は大丈夫なのかしら、と思った時がスタートです。いつでも動物病院にご相談ください。

(2023年5月 山口文 DVM, Ph.D.)

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