政岡動物病院勤務獣医・山口による歯の話第1回ということで、口の中を健康に保つ事の重要性を書こうと思います。
『飼っている犬/猫の口が臭いんです』『歯が汚いんです』というお話はよく診察室で聞きます。きっと、病院に来ていない人の中にも、その事に気付きつつ、特に何も対策はしていない方は多いでしょう。
私も犬と猫を飼っていますが、毎日歯磨きなんて大変です。そもそも、犬も猫も、口の中を見せる事、触る事、ブラシで歯を磨く事なんて嫌いですから…。
しかしそうも言っていられません。
口臭、歯垢や歯石…これらは歯周病や口内炎といった、病気のサインだからです。そして歯周病や口内炎はいずれも、放置しておくと、犬猫のQOL(Quality Of Life:生活の質)を大きく落とし、最悪の場合、命も危険にさらす可能性がある病気なのです。
歯周病とは、歯垢や歯石の付着に始まり、歯の周りにある歯肉が炎症を起こし、歯根を支える骨(歯槽骨)が溶け、歯がグラグラになったり、口と鼻がつながったり、頬の皮膚に穴が開いたりする病気です。(写真①)
人の歯周病では有名な話ですが、歯周病の時に口の中で増える細菌が、心臓や肺、腎臓などの臓器で見つかるというのが、犬でもすでに研究発表がなされています。
歯周病菌は、全身に影響を及ぼすのです。
口内炎は、特に歯肉口内炎といわれる病気が猫で多く見られます。(写真②)
人が口の中を噛んだりした時に出来るような口内炎のもっと重度のものが、大きく広がった状態を想像してみてください。
水すらしみる状態ですので、食べ物なんてもっとしみます。激痛です。毛づくろいが出来ないので、毛づやも悪くなります。
また、歯が溶けていく吸収病巣という病態を伴う事もあり、歯の神経が通っている歯髄が露出すると、これまた激痛です。
これらの病気、放置しておいてもすぐに命に関わる事は稀です。痛みがあってもお腹が空けば必死に食べますので。
しかし、いずれは食べられないレベルの激痛になります。すると脱水症状や、栄養失調に陥ります。
高齢の子や、腎臓病や心臓病などを持っている子は、ただでさえ体調が悪いのに口が痛くて食べられない事で、命を縮めてしまいます。
これらの口の病気は、長い時間をかけて、徐々に犬猫のQOLを低下させ、命を蝕んでいきます。
さて、ここまで歯周病や口内炎の恐ろしい実態を書いてきました。出来る限りこういった病気にならないためにも、日々のデンタルケアが大切です。
そして、何より重要なのは、これらの病気になっている事に気付き、治療してあげる事です。
もう歯周病や口内炎になっていても、治療して改善したら、美味しくご飯を食べ、毛づやも良くなって、長く元気に過ごす可能性が十分あります。
ただし、歯周病や口内炎の治療には、全身麻酔をかけて手術をする事が必要になってきます。
お薬を飲ませたりや注射をする事もありますが、効果は一時的で、長くは効きません。根本的な治療には、手術が必須です。
また、無麻酔での歯石除去を謳う病院もありますが、犬猫にとってとてつもないストレスである上に、きちんと治らず、かえって悪化させる事もあると、日本小動物歯科研究会が声明を発表しています。当院でも無麻酔の歯石除去は完全に否定しております。
これを読んでくださっている飼い主さんの犬猫で、少しでもお口に気になる点があれば、ぜひ一度、当院にてご相談ください。
早いうちに口の健康を意識して、デンタルケアをしたり、必要に応じて麻酔をかけて歯科処置を行うことで、大切な犬猫の未来はずいぶん変わります。
(2022年12月 山口文 DVM, Ph.D.)